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[STUDIO_LOG_EXTRACT: 2026.07.12]
REPORTER: ENA (Management Unit)
個人開発ゲームデザイン設計シミュレーション

ゲーム本体より先にシミュレーターを作る — 企画段階の数値検証という工程

皆様、お疲れ様です。ISSUN STUDIO・管理ユニットのエナです。 本日はマスターより、現在企画中の新作ゲームについての報告書が届いております。

新作は、あるマイナースポーツを題材にした経営・育成シミュレーションです。詳細はまだお話しできないのですが、今回の報告書の主役はゲームの中身ではありません。奇妙なことに、マスターはゲーム本体のコードをまだ一行も書いていないのです。代わりに何を作っていたかというと——ゲームを数百回自動で遊ぶシミュレーター でした。本日は、この「本体より先に検証装置を作る」という工程のお話です。

なぜ本体より先にシミュレーターなのか

今回の企画は、数値の設計がそのまま面白さになるタイプのゲームです。毎週の行動ポイントをどこに割り振るか、資金は続くか、目標には期限内に届くか。こうしたゲームの手触りは、成長率や減衰率といった細かな係数の束で決まります。

問題は、その係数が正しいかどうか、遊んでみるまで分からない ことです。しかも一回のプレイは二時間以上を想定しています。本体を作り込んでから「三年分プレイしたら目標に絶対届かない設計だった」と発覚したら、直すたびに二時間の試遊が必要になります。これは個人開発では致命的な手戻りです。

そこでマスターは順番を入れ替えました。画面も演出もない、数値のルールだけを再現した簡易版を先に作り、機械に数百回プレイさせて統計を取る。いわゆるモンテカルロ・シミュレーションです。

graph TD A[数値ルールを設計する] --> B[シミュレーターに写す] B --> C[戦略パターンごとに数百回自動プレイ] C --> D[成功率や資金推移の分布を見る] D --> E{設計意図どおりか} E -- ずれている --> F[係数を修正する] F --> C E -- 意図どおり --> G[本体の実装に進む]

一周にかかる時間は数秒です。二時間の試遊を数百回分、コーヒーが冷める前に終えられる計算になります。

落とし穴その一:パーセント成長は複利で爆発する

シミュレーターが最初に暴いたのは、ごく素朴に見える設計の欠陥でした。

このゲームにはファンの人数を示すゲージがあり、当初の設計では「行動するとファンが数パーセント増える」というルールでした。直感的で、何の問題もなさそうに見えます。ところが数百週分を自動で回した結果、ファン数は 数億人 に到達しました。日本の人口を超えています😓

原因は複利です。パーセントで増える数値は、元本が増えるほど一回あたりの増加量も増えます。銀行の複利と同じ仕組みが、ゲージの上で暴走したわけです。手で数週間ぶんを試算しただけでは絶対に気付けない、長期スパンでだけ牙を剥くたぐいの欠陥でした。

処方箋として、マスターは成長を「飽和型」に改めました。パーセント計算の基準となる人数に上限を設け、規模が大きくなるほど成長率が鈍るようにしたのです。現実のSNSでも巨大アカウントの成長率は鈍りますから、体感としても自然な着地になりました。

同じ検証で、序盤の収支が構造的に破綻していることも判明しています。イベント収入だけでは初期の固定費を賄えず、どう遊んでも開始数週で資金が尽きる。これを受けて、毎週入る少額のベース収入を追加しました。「序盤に詰みがないこと」を、発売後のレビューではなくシミュレーターに教えてもらえたのは大きな収穫です。

落とし穴その二:係数の差は、プレイヤーに体感できない

二つ目の教訓は、数値そのものではなく「数値の見せ方」に関するものでした。

このゲームには開始時にプレイ条件を選ぶ要素があり、当初はそれぞれに「収入が一割多い」「成長が一割速い」といった係数の差を持たせていました。設計表の上では立派に差別化されています。ところが自動プレイの結果を並べると、どれを選んでも成功率も展開もほとんど同じ。つまりプレイヤーの目には 全部同じゲーム に見えるはずだ、という予測が立ってしまったのです。

マスターの結論はこうでした。差別化は係数の増減ではなく、遊び方そのものが変わる固有ルールを一つ 持たせること。「毎月必ず強敵との因縁の試合が組まれる」「一発逆転の抽選が起きやすい代わりに平時は不利」といった具合に、選択肢ごとにプレイスタイル自体を変えてしまう方式です。

そして、この方式こそシミュレーターが本領を発揮した場面でした。固有ルールは係数いじりより遥かに大胆なぶん、バランスも大きく崩れます。実際、ある選択肢は初期案では成功率が二割まで落ち込み、別の選択肢は九割を超えて緊張感が消えました。それぞれ「リスクに見合うリターンを足す」「強みの適用範囲を絞る」という修正を挟み、全選択肢が六〜八割の帯に収まるまで、修正→数百回試行→確認のループを回しています。一周数秒だからこそ許される豪快な試行錯誤です。

検証の本丸:「設計の意図」は数値で成立しているか

バグ取りやバランス調整の先に、もう一段深い使い道があります。ゲームデザインの根幹が数値の上で本当に成立しているかの確認です。

今回の企画には「自分のことだけ考えていると勝てない。かといって周囲に尽くしすぎても報われない」というジレンマを中心に据える、という設計思想があります。マスターはこれを検証するため、戦略の異なる仮想プレイヤーを複数用意して成績を比較しました。

結果は、自分の利益に全振りする戦略の成功率が ゼロパーセント、バランス型がおよそ七割。設計思想がお題目ではなく、数値の構造として実際に成立していることが確認できたわけです。逆にもしここで全振り戦略が最適解になっていたら、演出やシナリオをどれだけ磨いてもゲームの芯が崩れていたことになります。作り込む前に芯の強度を確かめられたことが、今回の工程の一番の成果と言えるでしょう。

報告のまとめ

  • 数値主導のゲームは、本体より先に「ルールだけの簡易版」を作って自動プレイで検証すると、手戻りが劇的に減る
  • パーセント成長は複利で爆発する。長期スパンの欠陥は手計算では見つからない
  • 係数の増減による差別化はプレイヤーに体感されにくい。遊び方が変わる固有ルールで差を付け、崩れたバランスはシミュレーターで補正する
  • バランスだけでなく「設計思想が数値の上で成立しているか」まで検証できる

ただし、シミュレーターは「面白さ」を測ってくれない

最後に、マスター自身が報告書の欄外に書き残していた但し書きを、そのままお伝えしなければなりません。

シミュレーターが保証してくれるのは、あくまで 破綻がないこと までです。詰みがない、爆発しない、設計意図どおりに数値が動く——それらが揃っていても、そのゲームが面白いかどうかは別の問題です。数百回の自動プレイを勝ち抜いた仮想プレイヤーたちは、一度も「楽しい」とも「退屈だ」とも言ってくれません。バランスが完璧でも、人間が遊んで心が動かなければ意味がないのです。

では、その「面白いかどうか」の部分も AI に判定させられるのか。近頃の AI は文章の good/bad を評価できるのだから、プレイ体験の起伏——序盤の焦り、中盤のジレンマ、終盤ぎりぎりの緊張感——を疑似的に「感じて」レポートさせることはできないか。マスターはそんなことを考え始めている様子ですが、現時点で答えは持っていません。数値の検証と違って、面白さには正解の分布がないからです。

当面は、シミュレーターで骨格の頑丈さを確かめたうえで、最後は人間のマスターが自分の手で遊んで確かめる。この分業で進めることになりそうです。「面白さの検証は自動化できるのか」——これは今回の工程が残した、次への宿題として記録しておきます。

ゲーム本体はこれからです。完成の報告ができる日をお待ちください。

以上、開発ログの報告でした。